拝啓

アニメーション制作をしているスタジオボイラー 代表 青木隆志と申します。

私はアニメ制作者として、そして本当に子どもを思う一市民として、東京都青少年保護条例改正案(以降・条例案)に反対するため、お手紙をしたためます。

概要は以下の通りです。

1.日本は先進国の中でもっともポルノが氾濫しているが、先進国の中で最も性犯罪の少ない国であり、ポルノが女性や子供を守っている。

2.表現規制はマンガ・アニメ制作従事者ならびに書店の雇用を奪う。影響はマンガ家・出版社・アニメータ・映像製作会社と広範囲に及ぶ。

3.ポルノマンガは低所得者層の娯楽。無用の攻撃は労働者同士の階級闘争(正社員労働者と非正規労働者)を生む。

4.子どもの意見が必要では?

■1.日本は先進国の中でもっともポルノが氾濫しているが、先進国の中で最も性犯罪の少ない国であり、ポルノが女性や子供を守っている。

確かにポルノがコンビニエンスストアで購入できるのは欧米人が一番驚く部分です。欧米では風営法に相当する法律で指定された店でのみ販売が可能なので、学校などがある市内では出店が難しく、ハイウェイで郊外に行く途中にある小さな書店でひっそり販売しています。(通信販売もありますが)
それほど市中にポルノが蔓延している日本ですが、性犯罪の発生率は先進国の中で最も低い国です。

第7回国連暴力白書 1998〜2000年10万人当り強姦事件・年発生率より抜粋
国名 発生率
カナダ 73.3
アメリカ 30.1
イギリス 14.2
フランス 13.9
ドイツ9.1
ロシア 4.9
イタリア 4.0
日本 1.77
この数値は古いデータなので、最近のものを調べてみると、東京で1.66件とさらに性犯罪は減っています。(読売新聞ニュースサイト・2010年3月11日・「強姦ワースト1、4年連続の福岡から東京に」より)

ポルノが蔓延している状態なのに犯罪発生率が減り続けているのも驚きであると共に、同時にどうしてポルノの多い日本でこれほど犯罪が少ないかと疑問が浮かびます。
私は、ポルノが潤沢に供給されることで、男性の性衝動をうまくポルノに消化させることでき、結果として女性や子供を守る文化が形成されているのではと考えます。本条例案に反対する方の多くにポルノと性犯罪の因果関係はないと(環境犯罪誘引説否定論)いう方がおられますが、そうではなく「ポルノが性犯罪を予防している」事実が、こうした数字が出るのではないでしょうか?(ポルノがコンビニで買えるだけで性犯罪抑制につながると立証するには要素が少なすぎる、と言われると同時に条例案の可決が性犯罪抑制や青少年の育成に影響しない可能性も語ることができるのですが。)
ポルノを厳しく禁止しているイスラム系の新興国などは近年の市場開放と伝統的な教えとのひずみが生まれ、近隣諸国から女児を連れ去り、薬物漬けにして、炭鉱労働者や日雇い労働者向けの売春宿に監禁していた事件などが発生しています。(ここに具体的な事件と国名を挙げていたのですが、無用の紛争を産みそうなので記載しませんでした。)こうした従来存在しなかった独身の都市型労働者は伝統的な教えを守って女性を守るという思考より、性衝動を優先する人が多くいるのは悲しい事ながら事実のようです。ですが、彼らにポルノ雑誌が与えられ、性衝動を被害の合わない対象に向けさせれば、性犯罪被害は随分少なかっただろうと思いました。東京では独身の都市型労働者は少ないのでしょうか?
大人たちは表ではポルノや性文化を遠ざけ清潔な社会を叫んで、目の届かない裏社会では悪事が横行し、女性や子供が被害に会う。これはとても恐るべき未来です。
大切なことは性犯罪を起こさないことであり、私は現実的な防犯策として、男性の性衝動をポルノに向かわせることで、女性や子供が被害に合わないようにすることが、これまで性犯罪を減らしてきた実績のある「社会の治安意識」の歴史だと思います。そしてこれまで治安に携わってこられた警察機構の歴史的な意思だと思います。何よりそうした方針で実績を残しています。
これまで、こうした社会全体の意識の流れ・歴史の流れを無視して急進的な法改正を行なってしまい、多くの失敗があったのではないでしょうか?強く留意するべき点として、本条例案にあってはこの「失敗」の意味するところは「女性や子供の被害」というところです。
「今回はポルノ規制ではなく、レイプおよび児童性交の表現規制だ」とおっしゃられるかもしれませんが、上記の論調と同じくレイプ願望をマンガなどで消化することができない人間が、実際の女性や子供にそのハケ口を求める可能性はありませんでしょうか?何より規制を行った結果、性犯罪・少年犯罪が増えたとき誰が責任を取るのでしょうか?

大人としてのメンツを守るために、子どもを傷つけるようなことがあってはなりません。

世の中誰しもが聖人や僧侶ではありません。社会が理想だけで築くことができるのなら、今頃ソ連などの共産主義国は崩壊していないでしょう。性衝動は神様から与えられた男性の生理機能です。性衝動を抑えられない男性を非難するのは簡単ですが、これで本当に性犯罪が減るのでしょうか?
我々も未来ある子供たちを守っていきたい。
それは、原理的な禁欲主義からではなく、合理的で現実的で実在の女性や子供を守る行動を取りたいという強い信念です。その手段がマンガやアニメだと私は思います。

ただ、こうした想いを業界がPTAなどの親御さんたちとコミュニケーションを取れていなかった事実は、強い反省点だと感じています。


■2.表現規制はマンガ・アニメ制作従事者ならびに書店の雇用を奪う。影響はマンガ家・出版社・アニメータ・映像製作会社と広範囲に及ぶ。

もし、自分の身を守ることのみを主張することが許されるのなら、欧米で行なわれているようなもっと強力なゾーニング、具体的には一般書店での性描写があるポルノ雑誌の全面販売禁止は受け入れ、風営法で指定した店でのみ取り扱い、その代わりポルノ雑誌の表紙にタバコと同様に女性を監禁したり、襲うことは懲役○年以下の罪に問われます…ような旨の注意文を書いた上で、いかなる表現規制も受けない自由なポルノ作品を公開・販売することについては『自己保身のためだけなら』受け入れる用意があると考えます。
ですが、一般書店でのポルノ雑誌の全面販売禁止が起こり、それによってポルノ雑誌がかなりの収入を占める零細書店の売り上げが落ちれば、経営がたちゆかなる書店が出るのは確実です。(この時点で実際の個人書店の売り上げについてきちんと聞いたのですが、私の実名入りで書面を提出するにあたり記載を断られました。匿名および直接議員様に内々に伝えるということもできません。具体的な数値を出せず申し訳ありません。)
ただでさえ出版不況により苦境に陥っている出版業界は、今回の条例案による表現規制で販売書籍数が減り、倒産する出版社が出る可能性もあります。出版社の倒産は、勤めている社員の解雇にもつながります。
我々の著作物を売ってくれる販売書店・出版社も我々の仲間だと思っています。この欧米並みの強力なゾーニングに対しても現段階で反対せざるを得ません。
また愛し合う男女同士の健全な性交を描くポルノマンガは○号ポルノとして一般書店での販売を許可し、ボーイズラブ(ゲイ)の性交を描いたポルノマンガは×号ポルノとして風営法で指定した店で…などと書けば、私は同性愛者への差別主義者になってしまいます。このように表現規制・販売規制は差別と隣り合わせであることもご考慮いただきたいです。

書店のみならず、西東京・杉並区および練馬区には多数のアニメ・マンガ制作従事者が住んでいます。今回の条例案による表現規制で直接表現の場を失って職を失うマンガ家も出る可能性があります。それはスタジオにいるアシスタントの解雇にもつながります。
ポルノと同じく社会道徳的に嫌われ者の「賭博」。これも3店方式という形で町のあらゆる場所にパチンコ店という形で広まっています。多重債務や幼児の車内置き去り死など多くの社会問題を起こしていますが、我々は安易に廃止せよとは言いません。パチンコ店の経営者・従事する店員・パチンコ台の筐体を作る会社など多くの雇用を創出しており、廃止した場合の社会的反動が大きいからです。

近年、子供を脅かしているのは「若年者の雇用不安」だと誰しもが思うところではないでしょうか?事実、昨今の通り魔・殺傷事件の多くは派遣労働者・失業者・ニートなどが犯人です。まるで失業者を犯罪予備軍のように語るのは、失業されている方に大変失礼かと思いますが、若者ほど生活保護などセーフティーネットが受けにくく追い詰められやすい立場であることは、失業者だった私が一番よく知っています。
日本では働くことで人間形成がされるという「労道」のような考えがあると、失業なんかで自殺してしまう国民性を皮肉まじりに語られることがあります。が、私はその通りだと思います。雇用問題解決が最大の防犯対策であると、実は多くの市民がうなづくところではないでしょうか?ですが、労働生産性の改善など雇用と景気回復へのハードルは相当高く、言うは易し行なうは難し…、かといって頻繁に続く凶悪事件になんらかの対処をしなければ、親として気が休まらない!だからポルノが攻撃されているのだと思っています。気持ちはわかりますが、ポルノ文化への攻撃が失業者を生めば、さらなる治安の悪化を生むのではないかと一市民として恐れています。
雇用を奪うということは、相手に死ねと言っている事に等しい行為です。

レイプなど性犯罪を犯した人を死刑にするのはわかるのですが、犯罪を犯していない人まで失業という形で罰せられる世の中は間違っています。そして、そうした世の中を形成すれば、次に矛先が向くのはあなたかもしれません。


■3.ポルノマンガは低所得者層の娯楽。無用の攻撃は階級闘争(正社員労働者と非正規労働者)を生む可能性がある。

ポルノマンガは多く低所得者層の娯楽です。結婚できない、または性風俗店に行くことのできないような低所得者はポルノマンガでその性欲を発散させています。なので、ポルノマンガが援助交際で女性を買う側の道徳のハードルを下げているという点では100%違うと断言できます。非正規社員に女を買うお金はありません。
なぜ、これほどまでに本条例案の反対意見が多いかと言えば、すでに日本の労働環境が変わり、終身雇用の正社員よりも、非正規社員・日雇い労働者・派遣労働者・そして失業者の数が相当数に及んでいるからです。そこに対する攻撃は重大な政情不安を及ぼす危険があります。具体的には欧州などで移民の若者が過激なデモ活動を行なったりするような事例です。「独身の非正規社員世代は低賃金で企業から搾取されているのに、ホワイトカラーで結婚できる所得と地位を得て、様々な法的優遇を受けている人間たちが、我々の生活をコントロールし支配しようとすることは許しがたい弾圧。」そうした声が上がれば、労働者同士の対立という事態を起こします。ナチスは失業者を糾合して生まれた政党で、資産家であるユダヤ人を虐殺にして資金を得て、労働者の代表である共産党を虐殺して職を手にしました。
 PTAなど子どもを心配する親御さんたちの気持ちもわからなくはないのですが、最近ニュースなどを拝見していると、運動をされている方の低所得者層への挑発行為とも受け取れるような言動があり、率直に言って心配しています。私は現在31歳です。私の友人には子どもがいる世帯がいます。そして同じ世代にコンビニアルバイトをしている人やニートの方もいます。多くの親の世代も十分な給料が保障されているわけでもなく自分の身を守るので精一杯、時代やタイミングが悪くてきちんとした仕事に就けず結婚するチャンスを得ることができなかった人を刺激しないようにしているのを肌で感じます。
 多くの親御さんの希望は自分や子どもに危害が及ばないことです。一部の表現規制運動をされている方々のように刺し違えてでもポルノを根絶する!という人たちは少数です。
「エロ議員」と揶揄されたとき、是非「ことの良し悪しは別として、現段階で低所得者層を刺激しないことが、子どもと親を守る最善の策。」と伝えてほしいです。


■4.子どもの意見も必要では?

私が始めてエロ本を見たのは小学校5年生で、廃車置場の片隅に沢山捨てられていたのをむさぼるように読んでいました。が、結局レイプを行なうことなく、30近くまで童貞で、今も独身です。たしかにマンガの一部にレイプモノがあって、鞭で打たれていた女がいつの間にやら性の虜・・・なんて内容もありましたが、中学校の上級生から顔面をベルトでしばかれたときの痛みを知っていれば、完全なフィクションであることはアホでもわかることでした。善悪の判断はそうした幼稚マンガから学び取ることはありませんでした。

みなさん(女性の場合は旦那さんや身近な方に聞いてみて下さい)は初めてポルノを見たのはいつですか?

私は未成年のときの加護愛さんやダルビッシュ有選手が、飲酒・喫煙問題で謹慎を受けていたことについて、とても同情しました。なぜなら、ほぼ巷では18歳で普通にお酒を飲んでいるし、タバコも吸っている。私も18で飲酒しました。が、有名人だけがバッシングに合う。いや、観点を変えると「今、未成年である人達ばかりがバッシングに合う」。自分たちも大なり小なり法律で禁止されていたものに触れていたにも関わらず、自分達が大人になったら平然と子どもを弾劾するし、ルールを押し付けて禁止させようとする。未成年のときにポルノも見て、お酒も飲んだ私は、子供が悪いとは言えません。
 「子供が悪いだなんて一言も言ってない。」のなら、別にポルノが子供の目に触れてもいいはずでは?子供に判断力がないというのは、自分が子供だったときのことを思い出せば、明らかに違うと言えるでしょう。自らの考えで善悪を判断し、自立した考えの元「早く親から世話される存在じゃなく、自立して人に認められたい」と1人の人間として確立した思考と意思を持っていたはずです。そうでなければ、選ばれた存在である都議会議員にはなれなかったはずです。そして、レイプが悪いことだという情報も与えずに、人から殴られた痛みも知らずに育った「健全な青少年」が、本当に自立した「健全な大人」になれるでしょうか?優秀だった人がわりとニートになったりするあたり、そうした世の中の嫌なことを遠ざけたら家から一歩も出なくなった・・・、そんなことはないでしょうか?
 さらに、今回の条例案で小説などは規定に入りませんでした。おそらく作家出身の石原都知事の反発を防ぐためと思われます。子供はこうした行動をきちんと見透かして、大人を侮蔑します。
子供は未熟ではない。そして、未熟なままでいてはいけない。私は青少年保護条例という考え方そのものにも疑問を呈します。たとえ惚れても容易に体を許さないことで、感染症や妊娠などのリスクを避ける、そうした思考は自立した人間にこそ芽生えるものです。自分が死んだ後も自分の身は自分で守れる思考を育てず、悪い情報だけをシャットアウトし続けて、いざリスクに直面しても対処する思考をせず回りに流される・・・、それって子どもを本当に守っているでしょうか?正直言うと、私達20〜30代の世代の苦境の原因もここにあるのではないかと感じます。
子供に自分達と同じ目にあって欲しくないと強く願うからこそ、悪い情報をシャットアウトする条例案は子供に対する検閲行為にあたるので反対します。

私達は上辺と建前だけで子供のことを心配したくない。

そして、そろそろ我々は子ども達の世代が年上世代を無条件で尊敬する時代が終わりを迎えつつあることを意識した方がいいと思います。老齢年金はそのうち1人の高齢者を1人の若者が支える時代になるといいます。実はもう子どもを指導するのではなく、子供のご機嫌をうかがわないと自分の身が本気で危うい時代が来るのではないでしょうか?ご機嫌を伺うというのがトゲがあるのなら、きちんと自立した個人として敬意をもって接するべき時期に来ているのではないでしょうか?にもかかわらず、「健全な子どもを育ててやる、守ってやる」といった姿勢でいて、子供に接していて大丈夫でしょうか?最近、子どもの英語教材が流行っていますが、これって手放しに喜んでいいのでしょうか?
 私はこの条例案に子どもの意見も取り入れるなど考えるのも1案だと思います。該当のマンガを見て、「こんな仕打ちは不愉快」または「興奮するのでもっと見たい」などいろいろ意見が出ると思います。このまま子どもを蚊帳の外で子どもに押し付けるルールを決めていると、ハンセン病患者の生殖機能を奪った優生保護法と同じく回りの勝手な論理で子どもの権利を侵害するのではないでしょうか?


大人の建前だけを守り、女性や子供を傷つけ、マンガ家や書店の雇用を奪い、当の子どもは蚊帳の外にいる東京都青少年保護条例改正案に強く反対します。

アニメ・マンガの表現規制反対はアニメやマンガに関わる全ての人間の総意です。

なお、本文章はスタジオのブログにて公開しています。

女性と子供・そして雇用を守るために、何卒冷静なご判断をよろしくお願いします。

敬具

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スタジオボイラー
青木 隆志
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